社会の中のリスク

 事業リスクとなるリスクの基本には社会的リスクや日常生活でのリスクがあります。そこで、活動や社会生活を改善する活動が必要となります。改善活動とは目標を正確に認識して作業を改善する活動のことであり、例えば、目標に向かう作業に於ける無理、無駄、ムラを排除することがあります。作業中の無理、無駄、ムラは作業ロス、作業ミス、事故、怪我、コスト増の原因となります。以下に作業改善手法の例をしめします。
(1)5S活動 
5S とは直ぐに仕事にかかれるように準備をしておくことを目的とした活動であり、具体的には整理、整頓、清掃、清潔、しつけのことです。


(2)ホウレンソウ活動 
ホウレンソウは報告、連絡、相談のことで、チームで作業を円滑に進めるために必要な活動です。報告、連絡、相談ができていれば、障害に対する早期の対応が可能となります。

(3)KY(危険予知活動)
KY活動は障害予測能力向上のためのトレーニング活動であり、作業上の障害を予測することは作業ロスを回避するために必要です。加えて常に次の作業を考えて、作業を進めることは作業効率向上に必要です。

ヒューマンエラーとリスクマネジメント

 リスクマネジメントの目的は活動の進捗を不確かにする要因の排除であり、進捗が遅れる原因の多くはヒューマンファクターを元にしたヒューマンエラーであり、活動の進捗遅れを引き起こす最大の要因は人にあります。そっこで、リスク管理では事故やヒューマンエラーを回避ことが目標となります。大規模な事故が発生する前に小さな事件(incident:インシデント)が多数存在します。例えば1件の重大災害の裏には29件の軽災害があり、そしてその背景には300件のヒヤリハットがあると言われており、1:29:300の関係をハインリッヒの法則と呼ばれます(図1参照)。つまり300回ヒヤリ、ハットがあれば1回の重大災害が発生すると予想される。ヒヤリハットとはヒヤリやハットした出来事のことです。よって大規模な事故を防ぐためにはインシデント管理が必要となります。インシデント管理は工場ではヒヤリハット報告と呼ばれ、病院ではインシデント報告として問題の発見、登録、教育がなされています。企業内の危険予知と危険回避教育はKY活動と呼ばれ教育が実施されています。KY活動では危険予知、危険回避が重要です。KYでは各人の経験値や暗黙知を形式知としてチーム員に伝える活動がなされています。ヒューマンエラーはヒューマンファクターが要因であり、ヒューマンエラーはを含む事故が起きる状況は図2に示すSHELモデルがあります。SHELLモデルは事故が起きるメカニズムを工学的にモデル化したものであり、事故が起きるメカニズムを解析する工学をヒューマンファクター工学と呼びます。ヒューマンファクター工学は事故が起きるメカニズムの解析と事故の低減を目標としています。ヒューマンファクター工学での中心はヒューマンファクター(図3参照)であり、ヒューマンエラーの低減が目標です。

図1 事故とインシデント
図2 SHELモデル
図3 ヒューマンファクター

人は不確実

マネジメント、特にリスクマネジメントでは人がリスクの1つとなります。理由は人は不確実だからです。人の働きは気分できまります。加えて人は病気になったり、怪我をして、期待通りに活動できないことがあります。そこで、マネジメントの方針は人の不確実性を除去するのか、人のスキルに期待するのかに分かれます。人の不確実性を除去する1つの方法がマニュアル方式です。マニュアルが完備していれば、要員を交代することは簡単にできます。しかし、マニュアル方式による、業務成果は明確で、現実的なものに限定されます。一方、人のスキルに期待する手法では人の管理が難しくなります。しかし、業務成果は期待を超えることもあり、期待を超える業務成果は期待以上の利益をもたらすこともあり得ます。

リスクマネジメントの目的はノンストップ

リスクマネジメントは企業活動を計画通りに進めるための手法であり、企業活動をノンストップで進めるための手法です。組織経営に於けるポイントの1つに業務を計画通りに進めることがあり、スケジュール管理とリスクマネジメントが必要です。リスクマネジメントの目的は仕事を止めないことと、仕事を待たせないことです。業務遂行中に発生するトラブルや障害について、発生する度に対応策を検討すると、毎回検討時間を要することになり、確実に業務が遅延します。そこでリスクマネジメントは業務遅延を防止するために、あらかじめ発現が予想されるリスクの洗い出しを行い、リスク管理表に記載を行い、リスク管理表にリスク発現時の対策を記載します。そして、リスクの発現が観察された場合には、リスク管理表に記載された対策が実行されます。リスク管理票が作成された後は、モニタリングによりリスクの発現を監視します。モニタリングする項目はトリガと呼ばれるリスク発現に先立って観察される事象であり、リスク管理表に記載されます。リスクマネジメントが機能することにより、リスクの発現が観察されると、検討時間無しに、すぐさまリスク対策が実行され業務遅延が防止されます。しかし、日々の業務環境の変化に対応して、業務を止めない、待たせないためには、リスク管理表に記載されてリスクを監視するだけではなく、日々変化する状況に合わせて日々発生する障害に備えてバックアッププランを考えておくことが重要であり、計画遅延とならないためには人の管理を含むヒューマンエラーへの対応が重要です。バックアッププランとは、例えば現場の現場マネージャが判断する手順組み替え等を含む日々の作業プランのことです。例えば、今、認識されている作業の中で、今できる作業から行うことがバックアッププランであり、日々の環境変化に沿って策定されます。主な環境変化は人に関する事象変化です。そこで、本書は3ヒューマンエラーを扱います。また一般的には、リスクマネジメントではマイナスのリスクを扱います、マイナスのリスクが発現すると行程遅延や費用超過となります。しかし、実際にはプラスのリスクも存在しており、経営計画やプロジェクトの計画時には表に出ることはあまりありません。しかし業務を計画通りに進めるにはプラスのリスクの認識が必要です、そこで本書はISOの31000で定義されているプラスのリスクについて、プロジェクト予算設定での具体例を示しています。リスクマネジメントではリスクの大きさを期待損害額で表現すします。期待損害額は式(1)にて算出を行います。更に定量的リスク分析で使用する発生確率の算出については、本書ではモンテカルロ法を使用して確率的にリスクの発生確率を求めるシュミュレーション例を示しています。

リスクの損害費用(期待損害額)=発生確率×発生時損害費用―――(1)

リスクマネジメントとは

 リスクマネジメントとはリスク管理や危機管理のことである。具体的な手順はリスクの洗い出しと評価を行い、リスク別に対策と対策の発動条件を設定してリスクに備えることである。1995年の阪神淡路大震災では鉄道会社や電力会社の大規模災害時の対応は迅速であった、迅速な対応が取れた背景にはリスク発現時の対策マニュアルの整備があったと考えられる。阪神淡路大震災以降、一般的な企業でもリスク管理が進むようになり、JISにもリスクマネジメントの原則及び指針が設定された。一般的なリスク管理ではリスクの洗い出し、定性的リスク分析、定量的リスク分析を行い、次にそれぞれのリスクに対策と対策の発動条件を設定する。以下にリスク管理の一般的な手順を示す。リスクマネジメントは図に示す損害度発生頻度マトリクスで示すことにより、可視化可能である。

(1)定性的リスク分析を行い、リスクの性質と発生頻度を定性的リスク管理表に記載する。

(2)定量的リスク分析により、定性的リスク分析で対応が必要となった項目に関してリスク発生時のEVM(Expected Monetary Value:期待金額価値)を損失額と発生確率から算出して定量的リスク管理表に記入する。次にリスク対策案の策定とリスク対策案の発動条件を策定してリスク管理表に記入する。

(3)リスク管理表に記入されたリスク発生の早期検知を行うために業務の進行状況のモニタリング方法を策定する。モニタリングする項目として作業の生産性、就労時間、ガントチャート上のマイルスストーン達成数、エラー発生数、手戻り発生数、スタッフへのヒアリングがある。

リスクの損害費用(期待金額価値)は以下の様に計算される。

リスクの損害費用(期待金額価値)=発生確率×発生時損害費用